男性袴のたたみ方完全ガイド|丁寧に保管するための手順
袴を着る機会は、卒業式・成人式・結婚式の参列、あるいは武道の稽古と、男性にとって決して少なくない。ところが、着た後の「たたみ方」となると、途端に自信を失う人が多い。絹やウールでできた高価な袴を雑に扱えば、折りジワがついたり、型崩れして次に着るときに困ったりする。正しいたたみ方を一度覚えてしまえば、袴は何十年も美しい状態を保てる。それだけの価値がある技術だ。

袴の種類をまず確認する
たたみ方に入る前に、自分が持っている袴がどのタイプかを把握しておく必要がある。男性用の袴には主に二種類ある。「馬乗り袴(うまのり はかま)」と「行灯袴(あんどんはかま)」だ。
馬乗り袴は、内部が二股に分かれたキュロット状の構造をしている。武道用や正装用として広く使われ、フォーマルな場面では最もよく見かける形だ。一方、行灯袴はスカートのように筒状になっており、内側に仕切りがない。着脱がしやすく、現代では卒業袴としても普及している。
たたみ方の基本的な流れは共通しているが、馬乗り袴だけ少し手間がかかる工程がある。素材についても確認しておこう。正絹(しょうけん)の袴は特にデリケートで、畳む前に湿気を飛ばしてから作業するのが望ましい。
たたむ前の準備が仕上がりを左右する
たたみ作業そのものより、準備の段階が意外と大切だ。まず、着用後すぐに畳もうとしてはいけない。体温と汗が残ったまま折りたたんでしまうと、湿気がこもりカビや変色の原因になる。脱いだ袴はハンガーや衣桁(いこう)にかけ、風通しの良い日陰で最低でも2〜3時間は干しておく。直射日光は色褪せの元になるので避けること。
次に、作業スペースを確保する。畳またはフローリングに清潔な布(風呂敷や大判のタオルでも可)を敷いて、その上で作業すると袴が汚れない。テーブルの上でやろうとする人もいるが、袴は縦に長いので床作業のほうが断然やりやすい。
男性袴のたたみ方|基本の手順(行灯袴)
まずは比較的シンプルな行灯袴からはじめよう。手順を覚えれば10分もかからない。
ステップ1:袴を広げる
袴の前側(前紐がついている面)を上にして、床に広げる。ひだ(プリーツ)が整っているかを確認し、乱れていれば手で丁寧に伸ばす。ひだは袴の命とも言えるパーツで、ここがよれているとどんなにきれいに畳んでも意味がなくなる。
ステップ2:左右のひだを整える
袴の前面には通常、縦に5本のひだがある。中央から左右に向かって順番に揃えていく。指先でひとつひとつのひだをつまみ、根元から毅然と押さえるように整えるのがポイントだ。
ステップ3:縦半分に折る
左右のひだが整ったら、袴を縦方向に半分に折る。前側の中心線に沿って、丁寧に合わせる。このとき左右の端がずれないよう、上からそっと押さえながら折っていく。
ステップ4:横に三つ折り(または四つ折り)にする
縦に折った袴を、今度は横方向に折る。一般的には三つ折りにするが、収納する箱や引き出しのサイズによって四つ折りにしても構わない。ただし折る回数が増えるほど折りジワがつきやすくなるため、できるだけ少ない折り数に抑えるのが理想だ。
ステップ5:紐を整えてまとめる
前紐・後紐を袴の上に重ね、絡まらないようにまとめる。紐のたたみ方は後述するが、くれぐれも雑に丸めてしまわないこと。紐に折りジワがつくと、次回着付けのときに非常に扱いにくくなる。

馬乗り袴のたたみ方|股部分の扱いに注意
馬乗り袴は内部が二股になっているため、まずその股部分を処理してから行灯袴と同じ要領でたたむ。
袴を前面が上になるように広げたら、まず右側の股(裾の裏側)を中に折り込む。内側の布を外側と同じ形になるよう合わせ、左右の形を揃える。これをやっておかないと、たたんだときに内側でモコモコと余りが生じ、ひだが乱れる原因になる。
股部分が整ったら、あとは行灯袴と同様の手順で進めればよい。ひだを整え、縦に折り、横に畳む。馬乗り袴は生地量が多い分、仕上がりがやや厚くなるが、それは構造上避けられない。無理に薄くしようとして強く押しつぶすのは厳禁だ。
袴の紐のたたみ方|これが意外と知られていない
袴本体よりも、紐の扱いに戸惑う人が多い。前紐(まえひも)は細長く2本あり、後紐(うしろひも)は幅広で1本ある。それぞれ処理の仕方が少し異なる。
前紐はまず半分に折り、さらにもう一度半分に折って四つ折りにする。そのあと、小さく折りたたんだ状態で袴の上に乗せるか、袴の後紐の中に挟み込む形でまとめる。
後紐は幅が広いので、縦に半分に折ってから横に三つ折りにし、袴の折りたたんだ部分の上に重ねる。最終的に全体をひとまとまりにして、和紙や布で包むか、袴専用の畳紙(たとうし)に入れると理想的だ。
本だたみ(ほんだたみ)という方法について
着物を扱う専門家の間では「本だたみ」という手法が基本とされている。袴の場合はやや応用的だが、基本的な考え方は同じだ。ひだを正確に揃え、生地に余計なテンションをかけず、折り目を最小限にする——この三点が本だたみの核心にある。
特に正絹の袴を扱う場合、この考え方は非常に重要になる。絹は繊維が細かく、雑に扱うと光沢が失われたり、生地が傷んだりする。呉服店や着付け師に教わる機会があれば、一度実際に見てもらうことをすすめる。百聞は一見にしかず、というのはこういう技術に限ってはとくに真実だ。
保管方法:収納の失敗が袴を台無しにする
たたんだ袴をどこに保管するかも、状態を保つうえで非常に重要だ。最もよいのは畳紙(たとうし)に包んで桐箱(きりばこ)に収めること。桐は湿気を吸収・放出する性質があり、絹製品の保管に古くから使われてきた素材だ。
桐箱がなければ、通気性のある不織布製の収納袋でも代用できる。ビニール袋やプラスチックの衣装ケースに直接入れるのは湿気がこもりやすく避けたほうがいい。防虫剤を使う場合は、袴に直接触れないよう紙で包んだうえで、箱の隅に置く。複数の防虫剤を混在させると化学反応で生地が変色することがあるので要注意だ。
年に一度は「虫干し(むしぼし)」を行うとよい。梅雨明けや秋晴れの日を選んで、袋から出して半日ほど陰干しするだけでいい。これを習慣にしておくだけで、袴の寿命が大きく変わる。

着用後のクリーニング:たたむ前に確認すること
卒業式や式典で着た袴は、たたむ前に状態を確認するひと手間を惜しまないでほしい。食べ物のシミや泥汚れが残ったままたたんでしまうと、時間が経つにつれてシミが酸化して取れにくくなる。小さな汚れでも、乾いた柔らかい布で軽く押さえてから干すだけで、状態が大きく変わることがある。
正絹の袴は自宅で水洗いできない。着用後にシミや汚れが気になるなら、着物専門のクリーニング店に持ち込むのが安全だ。ウール素材の袴も、強く擦ると繊維が傷むため注意が必要だ。化繊(ポリエステル)製の袴は比較的扱いやすく、メーカーの洗濯表示に従えば家庭洗濯が可能なものもある。
袴たたみの失敗あるある|よくあるミスと対策
実際に袴をたたんでいると、いくつかのパターンで失敗する人が多い。代表的なものを挙げておこう。
ひだがズレたままたたむ:最初のステップで丁寧にひだを整えないまま進むと、後から修正が非常に難しくなる。ここだけは時間をかけても構わない。
紐を丸めてしまう:紐をくるくると丸めて輪ゴムでとめる人がいるが、折りジワどころか型崩れの原因になる。必ず四つ折り・三つ折りにすること。
着たまま時間が経って急いでたたむ:帰宅が遅い夜でも、翌朝まで衣桁にかけておく余裕を持とう。焦ってたたむのが最大の失敗の元だ。
湿ったままたたむ:汗を吸った袴を十分に乾かさないまま収納するとカビが発生する。夏場は特に注意が必要で、干す時間を長めに取ることが大切だ。
袴を長く大切に使うために
袴は使い捨てのファッションアイテムではない。きちんとたたみ、適切に保管すれば、親から子へと受け継がれる一品にもなりうる。実際、呉服の世界では数十年前の袴が今も現役で使われているケースは珍しくない。
男性袴のたたみ方は、一度覚えてしまえば体が自然に動くようになる。難しい技術ではないが、「なんとなく」でやり続けると少しずつ袴を傷めていく。今回紹介した手順を実践することで、次に袴を取り出したときに「ちゃんと保管してよかった」と感じられるはずだ。日本の和装文化を身近に感じながら、袴を丁寧に扱う習慣を、ぜひ今日から始めてほしい。